ライ麦畑で土下座して

うっすら人殺し。映画やドラマの感想など。

犯人と探偵って結局、同じ人間なわけで。映画「ブレスラウの凶禍」ネタバレ有感想

 

見ながらグロ〜と引き気味でしたが、だんだんと「段々とこの程度のグロさは監督の中で許容範囲なのでは?」と思い始めた。大きな理由は露悪的なものをあまり感じないから。傷口を必要以上に生々しく見せなかったり、凄惨な死に方や殺され方が多いけど映し方は終始淡々としている。上品な血の飛び切り具合でしたが、スプラッタを望む人には物足りないのでは。

 

 

ポーランドの映画です。あまり馴染みがない北欧が舞台なんですが、冒頭からアクセル全開。まさか「輪姦の経験はある?」から始まるとは思わなんだ。話しかけられた方は方で銃握ってるし。どういうこと? ポーランドではこれ普通なの?????

 

 

そんなわけねえと思いますが、しかし、一部地域ではそうなんだよ、そしてこの映画はこういうところで起こるお話だよ、ということを視聴者の脳みそに刻み込んでくれます。インパクトも十分なのはもちろん、状況の説明をいっきにすませてるのって見事ですよね。視聴者はいやでもこのシーンをうっすら思い浮かべながら事の成り行きを見守るので。映画開始5秒のインパクトで競う選手権あったら確実に上位に入るでしょう。

 

 

主人公の追い込まれ具合は役者の演技が最高と言っても過言ではないのでは。同じく開始5秒で叩き込まれます。追い詰められて擦り切れた手負の獣みたいな彼女の雰囲気。それは画面の隅々までくまなく伝播して映画全体の仄暗い感じに貢献していると思います。髪は自分で切ってんのかと思いました。アシンメトリーでもやりすぎだろうって。

 

 

フィンチャー監督のセブンと比べる声が多いようで。

主人公の最後の行動が似ているという意味なのか。あれはミルズやサマセットなんかの刑事に焦点を当てているのが大部分だったと思うので「ミクロ」な話。対するこっちは主人公や犯人の行動を通してずぶずぶでくそくそな社会構造を照らし出す「マクロ」な話。自分はセブンは一度見たものの消化できていないのですが、理由はミルズたちに感情移入ができなかったところが大きかったというふうに思う。

 

 

犯人像も大きく違う。あまり大きなネタバレではないと思うので書いてしまいますが、セブンの犯人はいちから十まで個性を没して「サイコパス」としてのキャラクターづけがなされている。殺人方法も常軌を逸したものだし、動機だって破茶滅茶。その動機をはんにんは自分の中で正当だと思い込んでいるからこそ「サイコパス」なのですが、ラストシーンにおいて犯人と主人公は完全に別物であるという演出がなされる。分断するとでもいえるようなシーンだ。

 

 

しかし「ブレスラウの凶禍」では、犯人は主人公の隣にずっといる。話を聞いて、行動を共にして。主人公は「そんな奴派遣していない」という中央局の電話をして初めて彼女を疑い始める。犯人の動機も、視聴者も同情できるし何より主人公の心を動かすものだ。

 

 

結局、探偵側である主人公が手を染めでもしない限りクソみたいな社会構造は変わりませんぞ、という....若干曲解のような気もしますけど。でもクソな社会が犯罪者をうむって、丸切り「ジョーカー」じゃないですか? あれはあれで個人に完全にフォーカスした「ミクロ」な映画でしたが。

 

 

およそ90分と短いので初っ端からぶっ飛ばしていきますし、荒削りな感じはしますがうわついた感じは決してしないので大変好感が持てる。見ていて飽きさせませんし、何も救いがないまま「こうして事件は終わりました」というふうに無慈悲に幕を閉じるのも無駄がなくていい。グロが大丈夫な人におすすめしたい映画。