ライ麦畑で土下座して

うっすら人殺し。映画やドラマの感想など。

こういうのわかる(気がする)〜......ということ 映画「みんな元気」ネタバレ有感想

今までは母親が間に入ってもらっていたことでなんとかなんとかなっていたものが、潤滑油がなくなり軋み出す。

 

 

映画の主題はズバリ子と親の関係性。東京物語が元らしいんですが見たことないので完全に初見。序盤で電車の向かいに座った人に嬉しそうに自分の仕事について語る主人公。もしかするとっていうか絶対、息子や娘にも同じように話して聞かせていたのではないか。問題形式の語り口調はまどろっこしく、個人的には内心「ウエー」と辟易してしまったが、聞き手のおばさんは嫌な顔一つせずに熱心に聞いていた。よくできた人間だと変なところで感心してしまった。

 

 

息子や娘への期待のかけ方と、現状の把握しきれなさを見るに、別に一緒に住んでいた時もそうだったんじゃないかなと思う。自分は仕事で、母親に子供のことを任せっぱなし。子供達のことを見えていなかったのは今に始まった話じゃない。現に、母親から伝えられる自分の子供たちの仕事っぷりを全く疑っていなかった。

 

 

子供たちならできるはず、という無条件な期待のかけ方。仕事一筋であったことを自慢気に話す様。きっと、彼の家庭は亭主関白だったんだろうなあと思った。父親が無自覚な亭主関白。1番タチが悪いだろう。まあ、否定はできない。そうすることで一応、家族はなんだかんだ回っていたのだから......

 

 

問題は潤滑油がきれたとき。結局自分のことしか考えていない傲慢な父親は、自分の小ささと取り繕われていた家族の本当の顔を見ることになる。それが題名の意味がわかる部分。「みんな元気」というセリフは、何も遠く離れて暮らす家族の安泰を示す言葉なんかじゃなく、妻からそれらしく加工された現実を、これまた都合良く耳にしていただけにすぎないのだ。

 

 

クライマックスとも言える子供姿に戻った娘、息子と会話をするシーン。赤ちゃんを自分の孫だと勘づくのは、やはり彼も父親だからか。想像で補っている部分もあるし「親だからわかる」という特権をうまいこと使っている。要所要所でばら撒かれていた小さな小さな違和感が一気にここで回収されていくのは普通に心地が良かった。

 

 

そして、デイヴィット。彼は欠陥や破損部分を騙し騙し回ってきた「家庭」の一番の被害者とも言える存在だ。「みんな元気」という言葉の裏側に詰まっているどす黒い部分が凝縮されているというか。何事も100%うまくいくわけない。誰も悪くないとも言えるし、彼の夢を蔑ろにした父親も自殺を選んだ彼も悪いとも言える。自分に嘘をついて生きてきた積み重ねが彼を長年苦しめていたことは確かだけど。病室でのデイヴィットの幻を見るシーンは良かった。子供の姿が多めなのも、他の3人と区別されていていい。

 

 

どちらかというと子供側からの視点から見たので主人公にはネガティブな感情を抱いてしまうが、親視点で見ればまた違う感想が生まれるのかもしれない。静かな映像に合間合間にさりげなく挟まれる自然や情景を映しだすなど、朗らかで上品な雰囲気があった。デイヴィットの葬式の下りなどがぶっ飛ばされていることには流石に看過しきれない「?」があったが、主人公の願いが最後に叶っていたので良しとしよう。