ライ麦畑で土下座して

うっすら人殺し。映画やドラマの感想など。

雑記

今日は()ちょっとぐったりしているので最近ハマっているものを書いておきたいと思います。

 

 

 

「ハーモニー」 伊藤計劃

 

言わずと知れたSFの傑作。内容はさることながら文体が自分の好みにマッチし過ぎて短期間で3回読んだ。

素晴らしい書評はいくつもあるので自分が今更いうことなど何もないけど、一つ言えるのは未来を描きながら今を風刺しているところがポイントだと思う。

個々のプライベートが排除され、体内のナノマシンによって健康から生活まで全て管理されている時代。個人を他人に明らかにすることが当たり前で、その上で人々は慈しみあい助け合う「超共生社会」。

ミソなのは「人に対して気を遣うことが推奨されている」というところ。これって現代日本でも一緒。それが、社会の規範の中で明確になっているというだけで、美徳とされているのは今と全く変わらない。また、作中でニコチンの摂取の是非を問う会合のようなものが催されている様が描写される。全く禁止されているというわけではなく、あくまでもニコチンの是非について話し合い、「ニコチンは悪」という考えを共有するのだ。その意見に反対した人は優しくねじ伏せられる。ニコチンが悪いことは最初から社会通念として確定していて、会合の真の目的はその考えに逆らう人間の思考を是正することなのだ。

主人公が感じる生きづらさを、他人事とは思えなかった。同調圧力、暗黙の了解、空気。いつもは馬鹿話をして盛り上がる友人が、学級会で模範的なことを述べるのを側で見ている、あの感じ。思考が社会に都合の良いように薄らと染められていくのを間近で観察している。別に社会に染まることが悪いことではないと思うけど、気味悪くはある。

 

ライトなタッチで、誰もが感じたことのある違和感をくっきりと書き出した伊藤計劃の手腕には感服する他ない。いったいどれほどの観察眼があればこんな話が書けるのだろう。今の世界を見て、天才は何を思うのかも気になるところではある。